研究概要 |
この研究は,地方の人形浄瑠璃のかしらを資料として,人形浄瑠璃の発生と展開の問題を解き明かすことを目的としている。平成13年度も20箇所以上のかしら調査を行い,新たな知見・確証を得た。かしらの表現形式からこの問題を考える場合,うなづき機巧の変遷は重要な意味を持つ。人形芝居のかしらのうなづき形式には,「引栓式」,「小猿式」,「ブラリ式」があるが,この他に,少数ながら偃歯の棒を上下させてうなづかせる「偃歯棒式」という方式がある。一人遣いから三人遣いに移行する過程を解き明かす鍵となるのが,「偃歯棒式」であると思う。「偃歯棒式」は,杉野橘太郎氏,永田衡吉氏等の先学も一人遣いから三人遣いに移行する過渡的な段階にあると目しながらもその理由が明確でなく,史的位置付けがはっきりしていなかったものである。しかし,平成13年の長野県佐久郡小海町親沢式三番のかしら調査,平成12年の佐渡人形芝居のかしら調査,平成10年の鹿児島県東郷町文弥人形調査において一人遣いのかしらの中にも「偃歯棒式」もしくは「偃歯棒式」形跡を留めるかしらがあることを確認した。これらの物証によって「偃歯棒式」は一人遣い時代に遡るうなづき形式ではなかったかという憶説を拙稿「佐渡人形芝居のかしらについて-うなづき形式に関する新たな見方を中心に-」(『年刊芸能8号』芸能学会,平成13年3月発行)で示した。また,「偃歯棒式」が三人遣いのうなづき形式「小猿式」,この形式は同じく三人遣いのうなづき形式「引栓式」より前段階にある形式と考えているが(平成11年3月発行の『年刊芸能』5号掲載の拙稿「人形芝居<三人遣い>の操り方の変遷-地方人形のかしらから-」),「小猿式」に連続することを示す資料を各地で得ている。これについても今後発表の予定である。
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