本研究において、明治維新期から10年代の東京を中心とした日本出版界、とくに予約出版の導入背景および意義を対象としてとりあげ、調査と分析を行った。調査研究は、今後も継続する予定ですが、近代初期の出版文化を明らかにすべく、下記の4つの文献あるいは領域に焦点を当てて実証的な検討を試みた。成果の一端は、報告書および「研究発表」に掲げた拙稿を参照されたい。 (1)明治4年官版『法普戦争誌略』にみる新聞等活字メディア関連記事 普仏戦争の直前からフランスへ留学した渡六之助が記した『法普戦争誌略』(8巻8冊、兵部省蔵版、須原屋茂兵衛発行)は、日本人が明治維新期に欧米近代の活字メディア、とくにジャーナリズムにどのように接したかについての、貴重な証言集である。本研究では、書き手が経験もし、メディアを通して認知した包囲下のパリの政治・風俗そして都市形勢についての記述を抜粋し、翻字校訂した。 (2)国立公文書館蔵『自明治九年至同十六年/雑書綴込』所収未紹介史料 明治維新期から10年代にかけて日本政府が民間の出版業者に委託して、多くの出版物を作製した。これらの出版物は、文明開化における知の最先端を示すのみならず、印刷技法・装幀・流通などをとりあげても当時では先進的で、民間出版業界に多大な影響を与えた。本研究で校訂紹介した史料は、国立公文書館蔵『自明治九年至同十六年/雑書綴込/刊本ニ付』に含まれた文書で、拙稿「『米欧回覧実記』出版のいきさつ」に収録しなかったものである。いずれも『米欧回覧実記』出版の前後に作成。 (3)東京・博聞社関連新聞記事 西洋学術の翻訳書など文明開化に深く関わった新興書肆に、博聞社という出版社があった。明治政府の御用をつとめるかたわら、予約新聞をいちはやく導入し、新知識の普及を積極的に試みた。ここでは、博聞社の営為を通時的に追跡できるように、『東京日日新聞』および『朝野新聞』広告欄にあらわれるその広告情報を抜粋、その全文を年代順に並べた。初期予約出版を支えた一書肆の姿を見通す資料として、有効なものであると考えられる。 (4)東京・自由出版会社他予約出版関連年表(未定稿) 明治10年代の政治文化に直結する形で翻訳書を次々と刊行した自由出版会社とその主人・三宅虎太について、拙稿「一八八二年、大新聞のるつぼ」ではやや詳述した。本研究では、予約出版の方法を取り入れながら、自由民権運動の思想的供給源を自認し、活字メディアの改良に挑んだ一肆の営為を年代順に並び、整理しようとした。姉妹店ともいえる漢学書専門の鳳文館について、発表済みの拙稿(「東京鳳文館の歳月」上・下〔ぺりかん社『江戸文学』一五号・一六号〕)と合わせて参照されたい。
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