本研究は、俗文学関係資料を利用することにより、中国近世音の実態の一斑を解明しようとするものである。中国近世音研究は具体的には唐末五代より清末に至る間の音韻状況を解明するところにその目的があり、その解明に当たっては、従来『韻鏡』・『七音略』等の等韻図あるいは元代の編纂になる『古今韻会挙要』・『中原音韻』、さらには『韻略匯通』・『韻略易通』等明清以来陸続と刊行された当時の地方音を反映する韻書等が主たる資料として使用されてきた。本研究はこれらの資料に加え、変文等の敦煌文学資料、宋詞そして元曲、さらには白話小説あるいは説唱文学資料に見られる押韻・別字異文等を分析・検討することにより当時の音韻状況を明らかにしようとするものである。本年度はその初年度として、まず国内において利用可能な白話小説資料にいかなるものがあるか、その調査と蒐集を行った(資料の整備)。ついで蒐集した白話小説資料の一部については、本文中に見られる俗字・異文、さらには本文中あるいは眉欄に見られる音注のうち音韻学的に有用と思われるものを抽出し(資料の整理)、それらを利用して、当該資料に反映されている音韻状況を明らかにすべく、その分析に着手した所である(資料の分析・解明)。
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