研究課題/領域番号 |
12610465
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
刈間 文俊 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (00161258)
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研究分担者 |
村田 雄二郎 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 助教授 (70190923)
生越 直樹 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 助教授 (90152454)
若林 正丈 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (60114716)
吉川 雅之 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 講師 (30313159)
楊 凱栄 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 助教授 (00248543)
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キーワード | 中国語 / 朝鮮語 / ベトナム語 / ナショナリズム / 近代化 / 漢字 / 粤語 |
研究概要 |
近代の国民言語としての中国語の形成プロセスを歴史的に概観した昨年度の研究に引き続いて、今年度はそれぞれの社会での国語の形成や現在の言語状況について一定の研究成果を得ることができた。 中国語、日本語、朝鮮語、ベトナム語など漢字を使用する言語にあっては、国民国家の形成や近代化のプロセスの中で、漢字をどう扱うかが大変大きな課題となった。社会主義は、伝統よりも国民の識字化を優先しようとするため、漢字・漢文を離れたり、簡略化しようとする。北朝鮮や北ベトナムのより徹底した漢字廃止や大陸中国における戦後の簡体字はそうした動きの一環と考えられる。逆に言えば、社会主義国と対峙した資本主義社会では、伝統を重んじようとし、台湾における繁体字の保存、韓国における漢字の残存、南ベトナムの漢文教育などはそうした例と考えることが出きる。また強いナショナリズムは、漢字とは別の固有文化を推し進める力となる。朝鮮半島で(漢字の残存に程度の差があるとはいえ)南北を問わずハングル化が進むのは、こうした現象と考えることができよう。また近代化への欲求は、ローマ字化となって現れ、ベトナム語のローマ字表記や、日本の戦後および大陸中国の初期の漢字簡化政策のように、漢字の使用を限定して、最終的にはローマ字による表記を目指そうという動きとつながっている。このように漢字を巡って社会主義、ナショナリズムや近代化が網引きをしたのが、各国の漢字を巡る「近代」であった。こうした様相をそれぞれの文脈に即して、少しずつ明らかにできたことが今年度の成果である。 加えて、各言語の現在の状況に関するさまざまな研究を同時に進行させ、これについても著書や教科書の形を取ってまとめることができ、大きな成果をあげることができた。なかでも「香港粤語」に関する研究は、いままで広東語の一部としてしか扱われてこなかった香港の言語について、その実体を詳細に明らかにした日本で最初の業績である。方言の形成が、社会変動とどのように関わっているのかを把握する上での基礎的な資料となることは間違いない。
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