研究課題
基盤研究(C)
中国において、清雍正帝期に、福建省で正〓書院が設立され,官話教育が展開されたが、それは近代的な意味での言語の標準化・規範化ではなかった。19世紀末から20世紀初頭にかけて出てきた国語運動は近代特有のものと言える。近代国家とともに生まれそれを支えたのは、国語national languageだけではなく、古典文明批判によって成立した近代文学も、国民国家形成に参与した。古典的な文学形式からの離脱は、簡明に遂行されたわけではなく、英語語法や欧州近代文学の語りを参照した欧化と、北方方言の口語を参照した口語化を主流としながらも、古語や方言の導入などを伴っていた。国語としての現代中国語も、形成の過程で、北方方言に従来あったとは考えられない語法が、南方方言から導入されたと考えられる。漢字以外の文字が混在しない中国語においても、語の文法化という現象が常に漢字の表意性を無視して働くことも、本研究の文脈では注目に値する。広東語における有声無字の周辺韻母の承認をめぐる混乱あるいは矛盾は、漢字と非漢字、さらには国語と方言との間の矛盾につながっていくものであろう。近年中国に返還された香港では、中学以上は原則母語教育が実施され、外国語としての「中国語標準語」教育がなされるようになった。広東語に対応するような香港の地域主義は「ナショナリズム」と呼べるようなものではないが、台湾においては、国語に対する台湾語の独立性は社会的にゆるぎないものとなっており、それが直接的に台湾ナショナリズムと結びついている。しかし、いかに台湾ナショナリズムが沸騰し、台湾社会が多文化主義的様相を強めても、台湾文化が漢字と決別しようとする気配はみえない。韓国や特にベトナムにおいては、他の東アジア諸国に比べてより強く、国語から漢字が排除されている。漢字文化圏の言語の近代は実に多様である。
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