本研究は3年間にわたり社会史的視点から香港の文学映画の成熟過程を明らかにするものであり、中間の年にあたる本年には、国際シンポジウムを開催して日本・香港・中国の研究者と共同討論の場を設けるいっぽう、70〜80年代の香港アイデンティティ形成を考察する論文を執筆した。 (1)シンポジウム「香港アイデンティティの形成」の開催 2001年5月18日東京千代田区日本教育会館にて東方学会が主催する「第46回国際東方学者会議」において本シンポジウムを主催し、東京大学人文社会系研究科外国人研究員の黄淑嫻博士と共に共同議長をつとめ、戦後香港文化史を検討した。発表者およびコメンテーターは以下の通りである。 林少陽(東大大学院生)「劉以鬯『酒徒』中的両個空間ーー香港与上海 陳国球(香港科技大学教授)「収編与誤編ーー中国文学史裏的香港文学」 許子東(香港・嶺南大学助教授)「九〇年代香港小説与『香港意識』」 梁秉鈞(嶺南大学教授)「都市文化与香港文学」(以上は北京語) 黄淑嫺「権力と欲望の元でのアイデンティティ探求ーー1950〜60年代香港日本文化交流の研究」(日本語) コメンテーター 吉川雅之(東大専任講師)、金文京(京大教授)、西野由希子(茨城大学助教授)、野崎歓(東大助教授、フランス文学専攻)、四方田犬彦(明治学院大学教授、映画学専攻) また論文「電影香港與李碧華」(中国語)香港を代表する作家の一人、李碧華の文学作品と香港における映画化との関係を通じて、香港アイデンティティ形成の80年代的特質を考察した。この論文は梁秉鈞編『香港文学與電影』(仮題・中国語)として2002年4月に香港・嶺南大学より刊行される予定である。9月には香港・広州に出張し、魯迅の現代香港に対する影響に関する調査を行った。
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