本研究は3年間にわたり社会史的視点から香港の文学映画の成熟過程を明らかにするものであり、最後の年にあたる本年には、香港・東京における香港文化をめぐる国際シンポジウム開催に協力して、日本・香港・中国・欧米らの研究者と共同討論するいっぽう、戦後日港関係を俳優宝田明、作家村上春樹らを軸に考察する論文・エッセーを執筆した。また女性作家の施叔青(1945〜)が香港最高級の社交場であるチャイナ・クラブをモデルに描いた長篇小説『ヴィクトリア倶楽部』を翻訳出版し、これに11000字ほどの解説を付した。(1)国際シンポジウム「香港文化と香港映画」への参加 2002年4月8〜11日に香港嶺南大学と香港映画資料センター共催で行われたもので、当時東京大学文学部外国人研究員、現嶺南大学講師のMary Wong(黄淑嫺)博士の報告"Women who cross borders: MP & GI's modernity Program"に対し、藤井はMen who see women crossing bordersというコメントを行い、香港映画産業におけるモダニティと越境の問題を日港合作映画の視点から問題提起した。また会議全体の討議に参加した。 (2)国際シンポジウム「香港映画の黄金時代I」への協力 2002年11月28〜12月1日に国際交流基金が同フォーラムにて開催したもの報告者は宝田明インタビューなどの資料を提供したほか、シンポジウム3「張愛玲〜上海文壇から香港映画界へ」の議長並びに報告者を務め、日本軍占領下の上海でデビューした張愛玲が、戦後、香港映画シナリオに挑戦して新しい文学を切り開いた点を討議した。また日中国交正常化30周年記念トークショー「宝田明大いに語る」では、映画評論家で明治学院大学教授の四方田犬彦氏と共に聞き手を務めた。(3)論文「村上春樹と東アジア」の刊行 香港大学中文系開催による「廿一世紀中国学術研究前瞻国際検討会」(2001年1月17日〜19日)において中国語で発表した報一告に基づく論文で、村上春樹の香港・台湾・中国における需要の状況を分析した。
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