中国現代文学の時期区分は、従来政治史(新民主主義革命史と社会主義革命史)を基準にして行われてきた。これに対し本研究は文学独自の立場に立って、政治史的時期区分とは別に「文学創作の発想法」を軸に時期区分した文学史モデルを作り出そうとした。 3年間の研究は、第1年目を『新青年』を主要資料とした五四期の思想用語の、第2年目は30年代から40年代の文学(主として左翼文学)の、第3年目は中華人民共和国成立後の文学の、それぞれ主要な発想様式の検討にあてた。その結果、(1)当初の予想通り五四以後の現代文学を一貫して流れる支配的な発想法は「暗黒に打ち勝ち、光明を求める」というものであること、(2)現代文学の発展過程で《暗黒》《光明》の指す具体的内容はさまざまな変化を遂げるが、発想法は基本的に変化しないこと、(3)この発想は1980年代初期までは基本的に影響力を持ち続けたこと、を示すことができた。そしてこの発想を「暗黒(中国語でheian)光明(中国語でguangming)モデル」(H/Gモデルと略称)として定式化した。ただ、この発想がどのようにして生まれたか、そしてどのようにして消えていったか、については一定の仮説を示したが、その実証は今後に待たねばならない。また、この文学史モデルは左翼文学については妥当であるが、20年代の非左翼文学には限定的な適用しかできない。これらの点は研究成果としての弱点である。 研究成果は中国の学会で部分的に3回にわたり報告し、中国の研究者からも一定の評価を受けた。また、その概要は「比較社会文化」vol.7、2001年3月に発表したが、今後同一テーマで発表していく予定である。またHGモデルによる現代文学史(試案)を研究成果報告書にまとめた。
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