本研究の目的は、李白の文の内、讃・記・頌の訳注を行い、さらに個々の作品を考証することである。李白について、詩の研究は大量に蓄積されているが、文の本格的な研究はない。従って本研究は李白の文学的世界を総体に理解するための不可欠な研究の一環である。また、日中の学者の共同研究という形を取ったところにも、本研究の意義がある。 研究方法は、日本で、市川が全ての翻訳を作り、中国では、李白研究で有名な南京師範大学郁賢皓・張采民も全ての翻訳を作り、それぞれ持ち寄って討論を行う、という形を取った。底本は宋本を用い、王〓本その他の基本的な注釈をそれぞれが参照した。 それぞれの作業は主に夏休みに進められた。九月に一週間ほど市川が上海・南京に滞在し、上海図書館古典籍資料室で資料を捜し、南京師範大学で「讃」の二分の一について討論を終えた。十一月に郁賢皓・張采民が来日し、日本に伝来する資料を参照し、「讃」の残り二分の一について討論を終えた。一月末に市川が再び中国に行き、「頌」の二分の一の討論を終えた。 注釈の作業は、インターネットのデーターベースを活用することにより、非常に便利に行うことができた。しかし、全ての言葉について、完全に検索することに、非常に多くの時間が必要であった。討論は、実のある有意義で興味深いものであった。中国の学者の翻訳は、感覚的に非常にすぐれているが、細かい点、論理的な点については、日本の学者のほうが客観的に見ることが出来る。そこで、一句ずつ分析する過程で、多くの議論が必要であった。一編の作品を検討するのに、丸一日の時間を費やすことも多かった。 本研究は来年度も継続される。来年度は、早くから作業が始められるので、残りの部分の討論を行い、完成原稿を作ることをめざす。
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