今年度は、1950年代アメリカ文学・文化の形成過程を、第二次大戦中の情報局の活動および戦後の占領時代における対外文化政策にまで遡って再検討する試みに着手した。これについては、OSS(Office of Strategic Services)関連の資料を合衆国の国立公文書館および議会図書館において調査し、マイクロフィルム"Administrative Histories of World War II : Civilian Agencies of the Federal Government"の分析も開始した。以上の資料については、文化研究の分野からの研究は皆無といってよい状況にある。とりわけOSS文書に関しては、ごく基礎的な編纂作業すらまだなされていない。 しかしへミングウェイ、フォークナーのノーベル賞受賞に際しての国務省の積極的関与にみられるように、1950年代のアメリカ文学の制度的形成は、こうした戦時下の文化政策のほとんど直接的な産物とさえ言える。50年代アメリカ文学史と冷戦時代の政治の関係性を再考するうえで、これは避けて通れない課題であるという確信を得た。 上記の研究と平行して、合衆国議会図書館において、戦時中および戦後初期の犯罪心理学書の網羅的な分析に着手した。こうしたテクストは、サリンジャーに代表される告白体の非行少年小説とのあいだに、見過ごすことできない間テクスト的関係を持つものといえる。両者のあいだで循環する、プライヴァシーの言説化の問題に関しては、次年度中に研究論文として成果を公表する予定である。
|