本研究は、後期古英語説教散文のうち、とくに二大作家の一人Wulfstanの特徴的な文体を模して説教散文を書いたと言われる無名の作者たち-所謂'Wulfstan imitators'による作品群のテキストと言語についての研究である。'Wulfstan imtators'なるものの存在については19世紀末以来賛否両論あり、古英語散文史の最も重要な問題であるにもかかわらず、今日でも依然として意見の一致をみるに至っていない。したがってWulfstanとその周辺のこれらの一連の散文作品についての徹底した比較研究がいま求められている。 本課題研究の初年度にあたる今年度は、基盤整備として、まずWulfstanの作品の一部を改変して利用した所謂'Wulfstan imtators'の作品コーパスを網羅的に調査確定し、対応個所を逐一明らかにし、それらをWulfstanの原文と対比したパラレル・テクストのデータベースを作成した。関連研究としてはJonathan Wilcox(1992)があるが、これは対応個所の一覧を示すにとどまり、本研究の目的とは異なる。そこで先ずこのWilcoxの目録を基にしつつ、さらに徹底した調査によってこれを補うべく努め、その結果得られた15作品、約60個所に及ぶ改変テキストの全てについて、Wulfstanの原文とパラレルに並置した版を編集し、これをほぼ完成した。その際、未校訂の二作品については、原写本のマイクロフィルムに基づいて新たにテキストを校訂した。また作成したデータベースは電子化した。以上によって関連テクスト間の異同が一目瞭然となり、精度の高い、しかも高速な比較照合が可能となり、次年度以降のこれらの作品の言語についての研究の態勢を整えることが出来たと思っている。
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