研究概要 |
本研究は、後期古英語説教散文のうち、とくに二大作家の一人Wulfstanの特徴的な文体を模して説教散文を書いたと言われる無名の作者たち(所謂'Wulfstan imitators')による作品群のテキストと言語についての研究である。'Wulfstan imitators'なるものの存在については19世紀末以来賛否両論あり、古英語散文史の最も重要な問題であるにもかかわらず、今日でも依然として意見の一致をみるに至っていない。したがってWulfstanとその周辺のこれらの一連の散文作品についての徹底した比較研究がいま求められている。 初年度には当該作品のパラレル・テクストを作成したが、これは既存の刊本に基づいており、これだけでは本研究の目的に充分とは言えない。加えて、とくに重要な作品については、原写本上の句読点などを再現した、より厳密なテクストを確定することが必要である。この観点から今年度は当該散文作品のうち次の四つについて、原写本のマイクロフィルム、ファクシミリ版を用いて新たな校訂を行い、これをほぼ完了した:(1)Napier XL (MS Hatton 114), (2)Napier XL (MS CCCC 419), (3)'Item alia'(MS Hatton 114, fols. 242v-46v), (4)Napier LVII (MS Lambeth 489, fols. 31r-38r)。これらはいずれも、原写本の年代、'imitators'の文体の多様性、説教散文の系譜などの諸観点から本研究テーマを有効なものとするうえで重要な作品である。とくに(1), (3), (4)はこれまで未校訂であり、また(2)についても既存の校訂本の原写本に基づく見直しを行った。(ただし(2)は時間の制約で一部に留め、残りは引き続き次年度に行う予定である。)以上の基礎作業によって、次年度に'Wulfstan imitators'の言語についての研究を進める態勢を整えることができたと考えている。
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