本研究最終年度である今年度は、これまでに収集した資料の分析を行い、研究代表者(林)、研究分担者(斎藤)のそれぞれの担当分野における研究成果を比較検討した。また放送大学助教授・大橋理枝氏の協力を得て、ロンドンを中心としてイギリスのメディア政策に関する現地調査ならびに資料収集を行い、英米の言語文化政策の違いを議論した。その結果、イギリスは英語という言語が自国の強大な文化資源であるとの認識に立ち、かつての植民地支配の結果として世界的に広がったその言語を、たとえば英語はもはや世界語であり、これから英語の規範を作っていくのはむしろ非母語話者であるといった自由主義的理念で包み込み、BBCワールドやブリティッシュ・カウンシルの事業の一環としての国際的英語研究推進事業ELTECなどを通じてメディア発信していることがわかった。一方アメリカでは、「2001年9月11日」のテロ事件からイラクを相手にした戦争の危機にいたる過程にあって、多様性を民主主義の特徴の一つとしてきたアメリカの方針が大きく変更されつつある現政権下において、多様性ではなく統一性によって敵に向かうという言説が政策として採用されていること、政府のメディア対策として起用された民間の有名な広告関係者が業績を上げられなかったとして解任されるなど、アメリカの発信する英語による言説の影響力の強大化はますます重要視されていることなどがわかった。このような英米の言語文化帝国主義がますます激化していることに対する危機意識を高め、それに対抗するメディア戦略を立ち上げる試みとして、研究分担者(斎藤)は放送大学番組「地域文化研究III」(平成14-17年度)の第4回と「英語IV」(平成15-18年度)全15回において、それぞれ英語帝国主義に関する講義と発信型の英語の授業を行ったことも記しておきたい。上記のような研究結果を踏まえ、現在最終的な報告書を作成中である。
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