前々年度、前年度から引き続き、A児を対象に日本語文法獲得に関する観察調査を行った(現在4歳9ヶ月;観察継続中)。 本年度はさまざまな構文が飛躍的な発展を示し、大人の文法とそれほど大きな差はなくなってきた。そのような中でも、使役、授受表現などには規則的な「間違い」が多々見られた。使役に関しては、昨年度に観察されたような依頼の文脈に限られる時期を脱し、それ以外の文脈でも頻繁に現れるようになった。形態的には、非使役形で使役を表すようなことはなくなった。それどころか、大人なら語彙的使役を使う場合でも、統語的生産的使役「させ」を使う場合が多く観察された(「見せる」の代わりに「見させる」、「消す」の代わりに「消させる」など)。この発達過程はよく知られているパターンで、A児もそれに従っていることになる。 授受表現に関しては、最初期から見られた不安定さがいまだに残っている。つまり、あげる・もらうの対比が依然として完全には修得されておらず、「Aにあげて」と自分で言う。「あげる・もらう」が動詞に付いて「やってあげる・もらう」などのように使われる場合にも同傾向は当てはまり、「ママがAにやってあげた」のように言うことがある。
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