本研究2年目にあたり、調査・検証作業を継続中である。中間段階で結論には達していないが、現時点までの調査結果の概要と今後の展望は以下の通りである。 今年度はマーロウの『ヒアロウとリアンダ』とシェイクスピアの『ルークリースを奪う』・『タイタス・アンドロニカス』の3作品を中心に比較検証し、オウィディウスの詩やリウィウスの歴史書からの書き換えの問題を考察した。また本研究と部分的に共通のテーマを扱っている合衆国のLynn Enterline(2000)や英国のRaphael Lyne(2001)らの最近の研究成果を踏まえ、調査対象を当初の予定より拡張して、ペトラルカ、エドマンド・スペンサー、ジョージ・サンディスなどの詩と翻訳も視野に入れて考察する方向で研究を進めている。外国旅費を用いた9月の調査旅行では、オックスフォード大学図書館所蔵の中世・ルネサンス期の古典文学の写本と注釈本等を調査した。人文主義教育においてレトリックと心理描写重視の観点からオウィディウスのテクストが広く利用された状況が、合衆国の古典学者Kathryn L. McKinley(2001)らによるオウィディウス注釈本の調査によって確認されているが、本研究では、その問題との関連で英国ルネサンス期のオヴィディアニズム問題を再検討する作業を、今後の展望の一つに入れている。また20世紀のサミュエル・ベケットなどに見られる「不在」のレトリックと、1590年代英国の異教的テーマの詩・演劇における「不在」のレトリックとを比較する試みも一方で進めている。『ハムレット』の劇評では、P・ブルック演出でのアイスキュロスの悲劇『縛られたプロメーテウス』の扱いに触れた。
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