本年度は、まず研究の準備段階として資料収集を中心に活動を行った。具体的には7月19日から8月31日まで、英国の大英図書館において内乱期の政治パンフレット、ニューズブック、ブロードシート・ポエム等の出版物に実地に当たり、隠喩表象の点で重要と思われる文献を収集・複写して持ち帰った。資料の膨大さから、1650年以降の文献にまで目を通すことはできなかったが、議会派の検閲が開始された1643年からチャールズI世処刑までの最も重要な時期に関しては、所期の目的のとおりに資料を収集することができた。帰国後、これらの文献の精読を進めており、個々の隠喩表象については目下整理と分析の最中である。ただし、全体としてひとつ明らかになったことは、この時代の特に韻文の出版物には、哀歌(elegy)、連祷(litany)等、特定の文学ジャンルの流行が見られ、そのなかで、先行テクストへの仄めかしやパロディー化が予想以上に行われていることである。これは、隠喩の成立にはそれを提示する枠組みとしてのジャンル自体がコードとして機能するという知見に関わる問題であり、本研究にとっての新たな検討課題となった。一方、渡航時および帰国後を通じてこの時期の検閲のありかたに関する資料と参考文献を収集したが、一時資料の精読と分析から作業に着手したため、この分野の調査は所期の予定どおりには進まなかった。来年度はこちらにも力を入れて検閲と隠喩表象の関係をより有機的に探っていきたい。
|