昨年度に引き続き、すでに収集した1640年代のブロードシートとパンフレット類の解読を行う一方、この時代の隠喩表象と文学ジャンルとの関わりを考察するために再度渡英して文献にあたり、哀歌(elegy)、連祷(litany)等のジャンルを中心に資料の収集と分析を行った。この結果、明らかになってきたのは、神話・古典文学・聖書などの伝統的イメージを借りた一般的で明瞭なコードからなる隠喩表象は依然多く用いられているものの、コード化の枠組みが特殊かつ不明瞭な隠喩表象もまた見られること、また、そのような隠喩の使用には、そのテクストの属するジャンルとそのジャンルが暗黙裡に指し示す読みの方向性というものが深く関わっているということである。隠喩表象の発展は、単に隠喩そのものの指示対象が原義から乖離し多様化していくということではなく、それを可能とする広義の「文脈」をいかに創出し利用するかという行為とも関わるものであり、この点はさらに考究を進める必要がある。最終年度である14年度は、この「文脈」の創出と利用の問題を、他のいくつかの文学ジャンルにも調査の対象を広げ、また、単に韻文テクストに見られる隠楡だけでなく、散文のパンフレット類に現れる隠喩も対象に考察するつもりである。また、隠喩というコードの生成に先行し、その前提としてジャンルの選択がなされるという事実は、表出行為の根幹にすでに隠蔽の意図が関わるという点において本研究の究極的なテーマと関わるものであり、14年度は、この問題についてもさらに考察を深めていきたい。
|