本研究は、隠喩、換喩、およびそれらに関連するレトリック(提喩、対義結合、転移修飾語など)のさまざまな表現の意味について、人間の認知のメカニズムとの関連に着目しながら総合的に解明することを目標とする。12年度は、日常言語としての英語および日本語、また英米文学や日本文学における詩歌などに見られるレトリックの大量の表現例についてのデータ処理を可能にする高性能のコンピュータを中心とした研究環境の整備を図った。また、本年度に収集したレトリックの表現のデータについての基礎的な分析を行うことにより、13〜15年度における本格的研究のための具体的方向性を確定した。 隠喩(メタファー)と換喩(メトニミー)は従来、双璧をなすレトリックとして取り扱われ、隠喩についてはその意味的側面が注目されてきたのに対し、換喩は主としてその指示機能との関連で考察され、二つのレトリックは対照的な扱いを受けてきた。しかし、英語や日本語の詩的表現における換喩の意味の分析を行った結果、換喩の情緒的意味が詩歌の抒情性において重要な役割を果たしており、その意味の側面は、従来の認知言語学研究では注目されてこなかった隠喩の情緒的意味とも重要な関わりがあること、隠喩と換喩は相互に異質で無関係なものではなく、むしろ密接な関係を持つレトリックとして位置づけられることがわかった。隠喩と換喩に共通するこの意味の側面は、他のレトリックの意味の重要な要素でもあるということが予測される。13年度以降は、12年度で確定した研究方針に沿って、さらに多様なレトリックの用例を収集、分析し、認知言語学的見地から考察する。本年度の研究成果の一部は、平成13年発行予定の『シリーズ認知言語学入門第5巻認知語用論』(大修館書店)にも発表される。
|