本研究の目的は、メタファーおよび関連するレトリックの表現について、それらの意味がどのようにして成立するのかを、人間の認知のメカニズムとの関連に着目しながら解明することである。本研究では、日常言語としての英語および日本語、さらに英米文学および日本文学における詩歌に見られるレトリックの表現例を、コンピュータを用いてデータベースから広く収集し、それぞれの表現の意味の成立に関与する、外界についての人間の認知のしかた、概念の形成の仕組について認知言語学の見地から考察した。 本研究は、理論的研究と応用的研究により構成される。理論的研究では、万物を構成する元素として伝統的に理解されていた地・水・風・火の四大元素の概念を用いて人間の精神を理解する認知プロセスに焦点を当て、これまでの認知言語学研究では提示されていない概念メタファー群を新たに提唱し、四大元素の概念を起点領域とし、人間の心の概念を目標領域とする概念的写像の有様を明らかにした。また、メトニミー・対義結合・シネクドキー・転移修飾語といった主要レトリックに関わる認知プロセスを考察し、それぞれの表現の意味として、概念の情緒的側面が機能していることを論じた。応用的研究では、談話と英語教育に注目した。連句・和歌・俳句に着目し、日本の伝統的な文芸に見られる詩的談話に重要な役割を果たすメタファーやメトニミーの働きについて考察した。また、概念メタファーを英語教育に生かすための方策を探究し、認知言語学・語用論・コーパス言語学など言語研究の最近の成果を採り入れて編纂され、概念メタファーについても多くの情報が盛り込まれている『マクミラン英英辞典』(2002)を利用した発信型コミュニケーション能力の育成の可能性について、実際の授業例を取り上げながら考察した。4年間の研究結果の総括内容の一部は『認知コミュニケーション論』(共著、大修館書店、2004)に発表した。
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