本年度の研究は、これまで古典共和主義の文脈のなかで理解されてきたジョン・ミルトンの共和主義思想を、さらに幅広い17世紀の思想情況のなかに置いてその特徴を特定するとともに、イングランドの帝国主義的発展に果たした役割を明らかにすることを目的として、主として王政復古期の文化研究に向けられた。 17世紀共和思想の流れを理解するためにも、反カトリック思想の展開とプロテスタント国家意識の成長とを関連づけて考察した。1605年の火薬陰謀事件、1618年にはじまる三十年戦争、1641年のアイルランド反乱・クロムウェルのアイルランド出兵、ロンドン大火、それに1678年来の教皇主義者陰謀事件と王位継承排除危機と、17世紀をとおしてイングランドが感じていた危機意識と、それから生まれた反カトリック言説をたどり、そのこととハーバーマス流の「公共圏」の誕生との関連に注目した。17世紀末に誕生したとされる「公共圏」は、かならずしも理性的な討論の空間とは言えず、カトリック反宗教改革への不安がその背後にあったことが導き出されたが、そのようななかで共和主義思想がもったラディカルな特質を確認した。 さらに、ブレナー、ピンカス、アーミテッジらの帝国主義論を比較検討して、帝国主義的拡張を主張する思想が17世紀のあいだにどのように発展していったのかを、革命以前、革命期、王政復古後に分けて考察する作業に取りかかった。
|