平成12年度の研究実施計画にあげておいたロバート・ペン・ウォレン研究に関しては、代表作『すべての王の臣下』を取り上げ、「歴史を書くこと、語ること-Robert Penn WarrenのAll the King's Menについて-」(第46回九州アメリカ文学会大会、平成12年5月)および「南部文芸復興期の「歴史」小説」(日本英文学会第53回九州支部大会シンポジウム「アメリカ作家と歴史認識」、平成12年10月)という標題で口頭発表をおこなった。 主要な論点は(1)語り手ジャック・バーデンが、三つの過去の探求(キャス・マスターンおよびアーウィン判事の過去の探求、さらには回想を通した自己の過去の検討)を通して、「大いなる痙攣」論者から「蜘蛛の巣」論者へという、みずからの変貌/改心の物語を紡ぎ出していること、(2)その物語のなかではジャックの自己像を相対化する仕組みが欠けているように思えること、(3)そこには一人称による回想形式つまり自伝的手法というジャンルの問題が関与しているのではないか、ということである。特に論点(2)と(3)に関しては、複数の歴史観のせめぎあいを構造化したフォークナーの「歴史」小説『行け、モーセ』との比較考察をおこなっている。ただ、この強力な変貌/改心の物語を促した作品内外の要因については、今後更なる検討が必要であり、それを踏まえたうえで早急に活字にする予定である。
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