1.平成14年度の研究計画を実施するにあたり、その基礎作業として前年度に発表された国内のアメリカ文学研究文献(75件)の収集・調査を行い、その成果を「日本におけるアメリカ南部文学研究書誌、2001」として、『言語文化論究』(九州大学大学院言語文化研究院)第17号に発表した。 2.前年度から継続中の、ロバート・ペン・ウォレンとウィリアム・フォークナーの比較考察については、フォークナーの『行け、モーセ』に見られる歴史認識の問題を再考し、「歴史を書く/歴史のなかで書く-フォークナー『行け、モーセ』と歴史認識-」という論考を、『英語青年』2003年3月号に発表した。 3.上記テーマに関しては、「ウォレンとフォークナーのインターテクスチュアリティ」という小文を書き、本課題の研究成果報告書に附録1として収録している。なお、この解説記事は日本ウィリアム・フォークナー協会編纂による『フォークナー事典』(来春出版予定、頁数その他の詳細は未定)に掲載されることになっている。 4.本課題においては、文学作品における歴史叙述の問題が主要なテーマのひとつとなっている。「文学の「歴史」的効用-村田喜代子とフォークナーの一齣から-」(『The Kyushu Review』7号)は昨今のポストモダン的な歴史理解の動向も視野に入れながら、その問題をエッセイ風にまとめたものである。この小文も、研究成果報告書に附録2として収めている。 5.本年度の主たる研究対象であったウィリアム・スタイロンについては、主要作『ナット・ターナーの告白』を取り上げ、そこに見られる事実とフィクションの問題や、歴史叙述とエスニシティあるいは類型的人物像構築の問題を論じた。これまでの論点を整理した上で、この作品をトランスエスニックな読みの可能性を秘めた作品として理解する考え方を提示した。その書き下ろし論考「事実とフィクション-ウィリアム・スタイロン『ナット・ターナーの告白』をめぐって-」が、本成果報告書の第3章となっている。
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