研究概要 |
本研究は,生成文法理論で仮定されている言語の構造的概念と意味的側面の脳内基盤がいかなるものであるかを探るために,失語症患者を対象とした文法障の実証研究を行うものである.昨年度は,レキシコンと統語の接点における計算について検討したが,本年度はその延長線上にあり,言語演算の中核である統語計算に焦点を当てた.具体的には,かき混ぜ文を取り上げて,統語的な要素の移動の有無とその距離が,失語症患者の文の理解に及ぼす影響を探ることを目的として,40名の失語症患者と10名の健常者を対象に,文と絵の照合課題および新たに開発したアニメーション課題を用いて行動実験を行った.結果は,予測通り,かき混ぜのない文の方がかき混ぜ文よりも理解が良好であった.要素の移動の距離の影響はほとんどなく,移動の有無が理解度を決定する最大の要因であることが分かった.この成果は,日本英語学会第19回大会ワークショップにて口頭発表した(2001年11月10日,於東京大学駒場キャンパス). 文法障害とは別の角度から統語演算処理の脳内機構を探るべく,脳磁界測定を行った(東京大学医学部精神神経科・昭和大学医学部精神神経科との共同研究).意味と統語の代表的な項目として,選択制限違反文と疑問詞と終助詞の不一致文を取り上げた.15名の被験者に対して行った予備実験の結果として,選択制限違反文では,左下側頭回後部に,疑問詞の違反文では,左前頭下回近傍と島回にECDによる活動の発生源を認めた.意味処理と統語処理が,脳の異なった部位で行われていることが脳機能画像法により確認された.次年度はレキシコンと統語,および統語計算についてさらにデータを拡充するとともに,これらの知見を統合して,モデル構築を行う予定である.
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