本研究は、Jackendoff(1990)Semantic Structuresにおいて提案されている、文浩的枠組みに関する三部門並立モデル(Tripartite Parallel Architecture)に体拠しつつ、音韻論と意味論とがいかに組み込まれていくのかを明らかにするということを目的とし、今年度においても、音韻論と意味論の研究を並行的に行ってきた。その中で、1件の学会発表と2篇の学術論文を刊行した。学会発表は学術論文として文章化した。音韻論の論文に関しては、音韻理論の極小化をテーマとし、音韻素性の自律分節的な拡張操作が、音節形成のメカニズムの変更により、如何に最適に極小化されるかを示した。とくに音韻的語の中に限定されている音韻的な過程は、本質的に音節形成の際の選択的な過程として変換可能であることを示した。これによって自律分節的な操作は、逆行的な過程のみであることを証明した。意味論の論文においては「語りのwhen節」と呼ばれるものを取り上げ、その解釈的な過程を考察した。英語の文末のWhen節にはいわば「遡及的に訳し下す」ことのできないものがある。その際の解釈過程は認知的ななfigure対groundという捉え方の中で成立するものであり、Jackendoff(1991)"Parts and Boundaries"の中で提案されている[±internal structure]と[±bounded]という素性によって形式的な説明が可能である。たとえば、The iceman might have been hunting when he died において主節はfigure、そしてwhen節がgroundとして解釈される、構築的な意味的過程が存在することを私は示そうとした。
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