調音システムと音声表示との間には、Jackendoff(2002)の意味合いでの(対応規則を含む)インターフェイスが存在しており、その領域においてタイミング要素の配列が行われる。その配列はさらに3段階に分かれており、音韻素性の自律分節的な拡張過程はそれらの全域にわたって適用可能である。さらにインターフェイスの理論的な形式に関しては少なくとも部分的に概念構造(意味表示)と認知モジュールとの間のインターフェイスの理論的な形式との間で本質的な類似性が認められる。上記の後半で言及されている音韻インターフェイスと意味インターフェイスとの形式的な類似性については今後の検討課題として残されている(この点については15年度以降の研究課題として申請中である)。ここで調音システムとして想定している有効な音韻理論はBrowmanとGoldsteinの調音音韻論(Articulatory Phonology)である。私は先の研究課題(基盤研究(c)平成10年度から11年度)において、音韻論全体の体系を整えつつも、音韻論の中心的な演算装置が「αを拡張せよ」という単一の自律分節音韻論的な操作であることを最終的に主張した。本研究課題はその結論的な部分において主張を維持しさらに発展させることになった。というのも、上記において言及されている拡張操作がここでもまた「αを拡張せよ」のみに帰されることが明らかになったからである。さらにこの研究においては「αを拡張せよ」自体が「合併せよ」(Merge)に変換されるという仮説も提示した。これは文法理論の構築に対して重大な示唆を与えるものである。私はJackendoffの一連の研究において提示されている概念意味論(Conceptual Semantics)での概念構造形成においても「合併せよ」が中心的な機能を果たすことを極、概略的にではあるが提示した。
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