Edmund Burkeは過去、中世、貴族階級を美化し、慣習、伝統、階級組織、体制の感傷的ともいえる擁護をおこなった。Burkeの保守主義的言説に対して、18世紀末から19世紀初頭にかけて活躍した英国作家達がいかなる反応を示したのかを分析し、Burkeに対する反応を一つの手掛りにして、最終的にはこの時代の錯綜する小説群にある種の見取り図を提示するのが本研究の目的である。Charlotte Smith、Mary Hays等の急進主義作家達は、Burke的家父長の支配する家庭を腐敗、虚偽、不正の温床とみなし、長子相続制がもたらす悲劇を小説中で描くなどして、Burkeに不信の念を表明し、一方、Jane West、Elizabeth Hamilton等の保守主義作家は、家父長を有能で賢明で慈愛に満ちた人物として理想化し、貴族階級、厳密な父系財産の継承等を小説中で称賛することによって、Burkeを擁護した、言い換えれば、Burkeは当時の作家達にある種の知的・思想的枠組みを提供した、ということを実証した。このような知見を、Burkeに対する言及やほのめかしが多数散見するJane WestのThe Infidel Father(1802)、Mary RobinsonのThe Friend(1795)、Robert Charles DallasのPercival(1801)、Sydney OwensonのSt.Clair(1803)、Charlotte DacreのZofloya(1806)などの小説を分析することによってさらに補強、拡大した。これらの小説は、現在絶版になっており、入手不可能である。そこで、Burkeとの影響関係が強く疑われる作品を大英図書館、ケンブリッジ大学図書館等からマイクロ・フィルムの形で取り寄せ、精読し、分析した。
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