1 先行研究の整理・検討を進めた。「ユートピア文学/思想」の研究書やモノグラフから当該テーマに有用と思われる業績を洗い出し、それらの着眼点および、分析法、評価の傾向を把握することに努めた。 2 (1)女性作家による作品。(2)児童文学(もしくは「ヤング・アダルト」)のジャンルに入る作品。(3)「ポスト・モダン」の作品群の3つを対象として、当該テーマに関連する作品をリスト・アップし、その読解を進めた。特に(2)の児童文学について、アメリカの「ヤング・アダルト」小説の調査に時間をかけた。最も注目したのが、アメリカ「ヤング・アダルト」の代表的作家ロバート・コーミア(Robert Cormier)であった。『デジタル月刊百科』2001年3月号に寄せた論文「ロバート・コーミアの最初の死のあとで」において、少年犯罪等の今日的問題と関連させてその小説世界を論じた。そこでコーミアがディストピアの類型をヤングアダルト文学の世界にもちこみ、定着させた功績を強調した。 また、『週刊朝日百科』72号の「ユートピアと反ユートピア」特集に掲載された論考「ディストピアの言語学」においては、ジョージ・オーウェル(George Orwell)の『動物農場』と『一九八四年』を取り上げ、以下の点を論証した。 (1)『動物農場』と『一九八四年』はどちらも権力と言語の関係を重要な問題として考察している。 (2)どちらのディストピアでも、権力者は言語の濫用によって支配を永続化の一手段にしようとしている。すなわち、言語の制約によって現体制をゆるがす危険なイデオロギーを抱かせぬようにしようとする戦略が取られている。 (3)しかし言語のポリフォニックな作用のため、そうした戦略にはどうしても裂け目が生じうる。ディストピア世界を描きながら、オーウェルはその裂け目を広げる道を示唆したと思われる。
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