研究概要 |
従来、ユートピア思想史の文脈で、その一変種として扱われていた「ディストピア」を単独に取り上げ、近年のフェミニズム、ポストコロニアリズム、カルチュラル・スタディーズなどの研究成果を援用しつつ、「ディストピア文学」の特質をより多角的に考察した。特に、「ディストピア」を描く作品群がほぼ例外なく言語的問題に関心を示すことに注目し、バフチンらの言語理論をふまえて「ディストピア」の言語の諸特徴を考察した。さらに、20世紀の最後の四半世紀において、「ポストモダン」小説や「ヤング・アダルト」小説にまで「ディストピア」が扱われている現状を概観し、この主題がきわめて今日的な意義と有用性を備えていることを確認した。 21世紀を迎えた現代においては、テクノロジーの飛躍的発展が人間の制御能力を超える地点に至ってしまったという器具が強く自覚され、「ディストピア」を描く文学表現がますますそのアクチュアリティをもつものとなっている。平成12年度の準備作業をふまえて、13年度においては、主として英米で発表された「ディストピア」小説の代表的な作品群を具体的に取り上げた。作品名を一部列挙するとこうである。George Orwell, Animal Farm, Nineteen Eighty-Four ; Katharine Burdekin, Swastika Night ; Robert Cormier, The Chocolate Warと。これらの作品を比較検討し、「ディストピア」小説に共通して社会批判の機能が備わっていること、それがこのジャンルの特徴であることを明らかにした。
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