第二次大戦中の強制収容所において、日系作家達は様々な制約のもとで創作作活動を続けたが、それらに関する研究は体系的に整理、分析されていない。本研究の目的は戦時下の作品を可能な限り収集し、分類、整理することで日系作家に与えた第二次大戦の影響を考察することにある。今年度はその予備的作業として、スタンダード大学のフーバー研究所を訪問して、Current Lifeを読み、検討した。Current Lifeは、1940年から戦争直前まで発行されていた二世対象の雑誌である。雑誌には代表的な二世作家のトシオ・モリや、まだ10代のヒサエ・ヤマモトも度々、詩や小説、エッセイなどを発表しており、戦前の日系作家が抱えていた問題が示唆されている。特に興味深いのは、アルメニア出身のウイリアム・サロイアンが度々、この雑誌に登場し、日系作家のあり方について書かれたエッセイや日系作家との座談会を通して、エスニックライターとしてのサロイアンの経験などを語って、日系作家にエールを送っている点である。今後、日系作家がサロイアンに惹かれた点を考察することで二世作家が理想として掲げていた文学がどのようなものであったかを明らかにすることができると思われる。以上のように、平成12年度の研究は戦前の日系作家を検討する際の問題点を確認し、検証することができた。 平成13年度は、今年度の研究をもとに戦争中の収容所内での新聞における文芸活動を整理したうえで、戦争が日系作家にあたえた影響を検討することになる。とくに強制収容という特殊な状況が二世作家のテーマや表現にあたえた影響に注意を払いながら、日系作家のエスニックアイデンティティの形成を考察したい。
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