本研究は、ジェイムズ・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』とはどんな作品なのか、その知の方位を測定することにあった。弟のスタニスロース・ジョイスが「文学のボルシェヴィズム」と呼んだように、この作品は英語を基礎としながらも、ヨーロッパのみならず、アフリカや東洋の60以上の言語で構成され、「世界としての本」としての膨大な知識の体系を背景に、さらに夢という認識枠に拠って立つ。そこで本研究では創作過程を参照しながら、全4部17章を順に検討し、できるかぎり平易な日本語で物語を要約し、そこに注釈をほどこし、登場人物の役割は何か、この作品はどんな内容であるのか、どのように意味が産出されているのか、構成原理は何か、夢の装置はいかなるものか、いくつかの箇所に散在する挿話の意味は何か、作品としての面白さは何か、また物語と国家とはどう関わるのかなどの問題を検討した。この作品は「言語革命」と名称され、大陸の文学との関連で読まれることも多く、実際その通りであるが、ポストコロニアルという時代状況も手伝い、これまで見過ごされていたアイルランド側からの読み方ができたことも大きな収穫であると思う。その成果は大学の紀要への発表や単行本という形で発表した。本研究は必ずしも網羅的なものではないが、今後これを手がかりに、学会や個人的なレベルでの研究活動が活性化されうると期待したい。
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