1.研究期間の最後の年度にあたって発表を開始した。 (1)「黄金都市マノア」では次のように記した。略奪に活路を見出していた当時の英国で、植民を唱えるには、黄金都市の魔力に頼らなければならなかった。そのうえ、現地人が信じるものを信じていたローリーに、黄金都市は実在していた。しかしながら、この植民計画は絵に描いた餅であり、遠征の実態は諸々の事柄において略奪であった。老王トピアワリとローリーとの間の、胸襟を開きあったかにみえる有名な親交も、一方は部族を守り、他方は黄金を奪取しようとする、双方の思惑から生まれた、政治的なものであった。ローリーの『ギアナの発見』で山場になっている、神秘的な飛瀑の、これも有名な描写は、国家をギアナに進出させるための、誘い水、として意図されたものと見なければならない。 (2)「ローリーのヴェネズエラ」で、ローリーの船旅のあとをたどった現地調査を報告した。当時の部族民たちが、広大な地域の点と点を結んで活発に交流しあっていた状況を追体験した。スペインの要塞地サン・トメの位置と地勢を確認した。ローリーの記述に謎が合まれている、飛瀑を調査して、前記のような私の見方を吟味することができた。 2.「伝記」について。14年度にRaleigh Trevelyanによる621頁の大冊が刊行された。この伝記自体に新しい発見は含まれていないが、これまでに諸家によってなされた発見を網羅して収録しており、また、事柄の背景が仔細に辿られて、エリザベス朝、ジェイムズ朝の詳しい絵図になっている。このような性格の本書は、近い将来に日本で初めて「伝記」を著すうえで、至便で有益な資料になりうるものであった。
|