本年度は、主要なテーマとして掲げた(1.「舞台芸術と公共性の概念に見られるポリティクスの変化:国家芸術基金を中心に」2.「資本主義社会における前衛舞台芸術の市場化:国際演劇祭と前衛技術のマーケタビリティ」3.「コンピュータ時代の演劇システム地図の変化:新たな国境往来が身体のポリティクスとコミュニケーションに及ぼす影響」)のうち、2を中心に進めることとし、まずは、いわゆる「前衛」という概念の成立に関わる十九世紀末から二十世紀以降のモダニズム(芸術)運動と、欧・米間の前衛芸術および前衛舞台芸術の交流の歴史を概観・検証する作業を行った。その中で、例えばニューヨークで行われていたArmory Showなど、国際展示会などの活発な活動が、作品の商品化を助長し、市場と流通を確保したという点で貢献していた事実を後付ける資料や文献の収集・分析を行った。その上で、欧・米間での前衛の交流を歴史的な文脈の中で位置づけを試みた。一方、これに加えて、1960年代以降の前衛(舞台)芸術の国際的な交流の歴史を検証した。さらに、欧米の演劇・舞台芸術祭の実態の把握を試みた。国際演劇・舞台芸術祭に招聘されるいわゆる「前衛」の舞台芸術は、同じプロダクションを複数のフェスティヴァルで上演することが多い。高額なプロダクションコストを節約するために、ジョイント・ヴェニューとして複数の公演地が選ばれることも多い。フェスティヴァル自体が市場と化し、そこで流通するために、「前衛」や「芸術」の価値を決定する要因の変遷とこれらによって、芸術のマーケタビリティがシステムとして確立する過程を歴史的・社会的な視点から辿る作業を行った。
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