本研究の目的は舞台芸術の分野における理論と実践の両側面から20世紀後半に新たに浮上した文化ポリティクスの諸相を検証するものである。このための具体的な研究テーマとして1.「舞台芸術と公共性の概念に見られるポリティクスの変化」2.「資本主義社会における前衛舞台芸術の市場化」3.「コンピュータ時代の演劇システムの地図の変化」を掲げ、実地調査を含む作業を行った。研究期間を通じ文化政策関連の資料を収集し、合衆国における公共による芸術支援という概念の成立史を検証し、この概念をめぐる理論の変遷をたどり、「アメリカ合衆国の文化・芸術政策:NEA4をめぐる一考察」(研究ノート)として所属機関の紀要に発表した。一方実践面に関しては、ニューヨーク市を例に、連邦政府と連動した同市および州の経済政策を念頭に置いた芸術・文化政策が介入して、いかに90年代の上演空間とオン、オフ・ブロードウェイとオフ・オフその他の関係性を変化させるに至ったかを調査・検証した。この成果を日本アメリカ学会年次大会のシンポジウムで報告し、さらにこれを「1990年代ニューヨークの上演空間-ニューヨーク市・州当局の文化政策をめぐって」として論文にまとめ東京外国語大学総合文化研究誌に発表した。また資本主義社会における芸術の経済的要素と公共の政策の関係に着目し、国際演劇祭に招聘され参加する作品のマーケタビリティの調査を開始した。合衆国の芸術・文化政策を調査する過程で、アジア系アメリカ人の主体の位置づけに関する政府の文化・教育・および対アジア外交政策と舞台芸術に表象される「アジア」の関係に注目し、これを「アメリカ舞台芸術における「アジア」という架空の主体をめぐって」という論文として京都造形芸術大学舞台芸術研究センターの舞台芸術研究誌に発表した。
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