活字メディアの世紀としての19世紀のヨーロッパにおける、「作家」「印税」「著作権」という3要素の関連を解明することが、本研究の主たる目的である。パトロンたちを「想定読者」としていればよかった時代は終わりを告げて、言説のマーケットに晒された作家たちは、いかなる象徴的なふるまいを見せたのだろうか? 以上の問題設定に立って、本年度は著作権関係の資料、文学者の書簡集等の収集を、初年度の主たる目標と定めて実行した。またパリの「フランス文芸家協会」とは書面で数回のやりとりをおこない、貴重な基本的資料を多数送付してもらうことができた。本来ならば、直接に赴いて資料調査をおこなう予定であったが、学務のために日程を確保することができず、来年度に持ち越した。また著作権・印税システムの日本近代文学への移植という側面も視野に収め、日本文学研究者との情報交換にもつとめた。 以下に初年度の研究実績を記しておく。バルザック書簡集の繙読等によって、中編『骨董室』の成立過程を解明し、日本フランス語フランス文学会のシンポジウム(昭和女子大学)で発表した。また「著作権」「作者の成立」といった主題に関しては、粟津潔・樺山紘一ほか編『印刷博物誌』(凸版印刷株式会社、近刊)で、編集協力者のひとりとして立項をおこなって、執筆した。なお2001年12月に東京で開催される国際シンポジウム(獨協大学主催)において、19世紀前半のフランス語の文学システムに関する総括的な発表をおこなうことが決定している(他の発表者はパリ大学教授A・コルバン等)。
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