平成12年度の研究に基づき、本年度は以下の研究を行った。 1)中世フランス語版『グラティアヌス教令集』において注目すべき単語と表現を収集した。その際、校訂版の底本となっているブリュッセル写本のマイクロフィルムと比較検討し、レーナ・レーフシュテット教授が作成した校訂版に多くの訂正を加えることができた。 2)トブラー・ローマッチ、ゴドフロワ、ヴァルトブルクなどの各種辞書および方言地図を活用し、収集した語彙の地理的・歴史的な意義を明らかにした。さらに、ハイデルベルク大学でフランクヴァルト・メーレン教授らによって現在編纂されつつある『古フランス語語源辞典』を補足する情報を提供することができた。その補足的情報は、出版された辞書の項目および補遺に収録された。 3)関連する中世フランス語・ラテン語作品の収集を続け、校訂版および語彙研究の批判的検討を行った。その成果は、ドイツの学術誌『ロマンス文献学雑誌』ならびにフランスの学術誌『ロマンス言語学雑誌』などに発表した。とりわけ、13世紀にアングロ・ノルマン語で書かれた『世俗の者たちへの釈義』の校訂版に対する補足と、13世紀にピカルディー地方で書かれたゴーティエ・ド・コワンシー作『聖母の奇蹟』の語彙研究を文献学的、言語地理学的な観点から詳細に検討し、多数の訂正を加えた。 4)パリ社会科学高等研究院のジャン=クロード・シュミット教授と研究打ち合わせを行い、中世フランス語版『グラティアヌス教令集』成立の歴史的背景、細部にわたる語彙の検討などを行うことができた。
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