3年間の研究によって得られた主たる新たな知見を以下に示す。 1、パリでの現地調査により、Victor Hugoの「霊界通信」を記録したProces verbaux des Tables tournantes de Jerseyの記録ノートについて、先行研究が明らかにしたものに加えて、先行研究が未参照のものがパリ国立図書館に所蔵されていることを見出し、Hugoの「霊界通信」の実体がHugoの無意識に近い特殊なテキスト生成であることをHugo自筆原稿等の検証を通じてこれまで以上に明確にした。 2、ユゴーの作品世界が「グノーシス主義的」と呼ばれ得るための要件をそれなりにすべて満たしているとともに、ユゴーは個々の作品の詳細部において、グノーシス主義的発想を散見させている。ユゴーのシンクレティズムの世界にあって、グノーシス主義はその有力な構成要素となっている。ユゴー独自の神話的宇宙論でありながら、きわめてグノーシス度の高い作品が「闇の口の語ったこと」という詩(1856年刊『静観詩集』収載)である。 3、近代国家はカトリック教会の支配を排除し、社会制度の根幹に非宗教性と科学的合理性を置くが、これに適合する精神世界の新たな支えが「科学的」宗教であるところのspiritismeであった。そのため、Allan Kardecにおいては、「霊」は現実世界と「霊界」の間の、死を超えた往復運動によって、きわめてペスタロッチ的な「個」としての成長を道徳的に遂げるとされる。 4、Flammarionのspiritisme研究の方法はつぎの二つに大別できる。すなわち、その第一はいわゆる「霊能力者」を対象とした能う限り客観的かつ厳密な実験をし、その結果の分析を行うことであった。第二は「心霊現象」の何千という具体的な事例をジャーナリズムも動員して収集し、それらの分類と分析を行うことであった。
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