平成12年度は、未刊の大作『ブヴァールとペキュシェ』の中に現れたフロベールの小説技法(コラージュなどの絵画技法や演劇での音声学をたくみに取り入れた技法など)や彼の唯一上演された戯曲『ル・カンディダ』の分析・研究を充実させるために、パリ国立図書館で19世紀末から20世紀にかけて出版された文芸雑誌等の膨大な文献のマイクロフィルムの検証をおこない、また国立アルスナル図書館ではフロベールと同時代の芸術家との相互影響について考察するために戯曲(演劇、オペラ上演のプログラムを含む)に関する資料の収集を実施した。その成果は2000年11月24日に東京大学で行われた<フロベール・シンポジウム>で発表した。 19世紀後半から20世紀にかけて、ゾラとセザンヌ、フロベールとモローあるいはルドン、そしてアラゴンとマチスといった文芸の相互影響が頻繁に見られる。そしてパリ万国博覧会等を介して、日本とフランスの交流が盛んに行われた時代でもある。研究者は日仏文化交流という観点から、少しフロベールとの距離をおいて、1921年から1923年にかけてフランスに滞在した日本画家・土田麦僊についての研究を平行して実施、大阪大学に博士(文学)論文を提出した。この論文作成は、大きなスケールでフロベールの20世紀への影響を考える上でとても意味深いものであった。
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