本研究を構成する5つの柱に則して、今年度の成果を以下にまとめる。 1.レーモン・ルーセル研究-ルーセルの『新アフリカの印象』における挿絵に注目して、ルーセルにおけるイメージの問題に取り組んだ。ルーセルの作品における文章と挿絵の関係を、彼が『アフリカの印象』中でも使っている活人画の変奏として見る可能性が見出されたと考えている。今後は、その裏づけをおこなわねばならないだろう。 2.アルチュール・クラヴァン研究-本年度は、これまでのまとめとして、彼の残した数少ない文章や書簡を再検討してクラヴァン像をさらに掘り下げるとともに、クラヴァンが滞在した時期のバルセロナ、ニューヨーク、メキシコ市の文化状況について調べ、20世紀初頭のモダニズムにおけるクラヴァンの位置も明確になってきている。 3.ミシェル・レリス研究-レリスの文学活動をモダニズムとエキゾティシズムの交錯点からとらえる視点が、昨年度来、われわれにはもたらされたわけだが、1950年代までの闘牛への関心と、その後顕著になってくる舞台芸術(とりわけオペラ)への関心に注目するとともに、両者を結ぶものとして民族学における憑依の問題に焦点を絞る可能性を検討した。 4.ダダ・シュルレアリスム研究-昨年度に注目したベンヤミンとシュルレアリスムの類似点をさらに探求するとともに、とりわけ無意識という観点から、シュルレアリスムと視覚芸術のかかわりを調べた。メディアとして新しく、まさにモダニズムとは切り離せない写真や映画とダダ・シュルレアリスムの関係は、今後、重要なテーマとなるはずである。 5.20世紀文化・社会・思想研究-上記の1〜4のテーマからはややずれるものとして、ヴィクトル・セガレンによって提唱されたエキゾティシズムをポスト・コロニアリズムの問題とからめて見直すとともに、20世紀の視覚芸術の展開を「無意識」と「身体性」をキーワードにして探った。両者に共通するのは「外」の問題系であることも明らかになりつつある。
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