研究の第二年目にあたり、昨年度に引き続き、主として基礎的な資料の収集に力を注いだ。具体的には特に 1)歴史学・社会学の視点から書かれた「時間論」に関する基礎的文献の収集。 2)レッシングの「ファウスト断片」と啓蒙主義関係の文献の収集。 3)ゲーテの『ウルファウスト』を中心に、シュトゥルム・ウント・ドラングの「ファウスト文学」関係資料の収集。 上記の資料をもとに、18世紀、啓蒙主義時代とシュトゥルム・ウント・ドラング期の「ファウスト文学」に現れた時間意識を分析するため、基礎的文献の整理・検討の作業に入った。とりわけ、レッシングの「ファウスト断片」に見られる「救済」の観念を時間意識との関連で検討し、前時代(16世紀)のそれとの相違を明らかにすることが当面の課題である。 研究成果として具体的に結実したものとしては、論文「<美>の探求者ファウスト、あるいはヘレナ劇の時間」が挙げられる。これは「ファウスト文学」のなかでも最も重要なゲーテの『ファウスト第二部』を取り上げ、その中核をなす「ヘレナ劇」の時間を考察したものである。ここにはすでに、「近代人」ゲーテの、近代の時間を超える視点が認められると考えるからである。近代の成立とそれにともなう時間意識の変容を考察する場合、『ファウスト』に現れたこの「超近代人」ゲーテの存在は、今後もきわめて重要であると考えている。
|