[平成14年度] 研究の第三年目にあたり、当初の計画に沿って、引き続き基礎的な資料の収集に力を注いだ。具体的には特に 1)日本語で書かれたものを中心に、「近代」「近代性」に関する基礎的資料を収集。 2)近年に出されたゲーテの『ファウスト』研究文献のうち、文学社会学的な視点で論じられたものを重点的に収集。 3)昨年度に続いて、「近代」「近代性」との関連の視点に立った「時間論」「歴史論」関係の文献を収集。 こうした基礎的資料の収集作業と並行して、それらの資料の分析・考察をもあわせて進めた。とりわけ、本研究の中心的な対象となるゲーテの『ファウスト』を取り上げ、主として「第一部」と「第二部」との比較検討によって、「近代」成立との関連からその時間意識の「変容」のあとを明らかにしようと努めた。また、近代の問題性が集約的に表現されていると思われる『ファウスト第二部』第4・5幕における、いわゆる「支配者ファウストの悲劇」を、特に成立した時代背景との関係から分析した。 具体的な研究成果としては、学術雑誌「モルフォロギア」に発表した論文「神話と自然--ヘレナ劇の誕生」において、ゲーテの「創作の原理」の解明にもつながる、ヘレナ劇における、近代を超える独自な「時間」を考察した。近代に対するゲーテの特異な立場を考える場合、このような「時間」の考察もまた、きわめて重要になると考えている。 以上のような作業を踏まえながら、最終年度における「報告書」作成に向けて準備作業を進めている。
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