研究の最終年度にあたり、4年間の研究を総合し、まとめた「研究成果報告書」を作成する作業に特に精力を注いだ。その際、すでに発表した以下の論文が基礎となった。 ・鴎外と『ファウスト』--時間論的にみた『舞姫』/「グレートヒェン悲劇」(平成12年度):『舞姫』とグレートヒェンの悲劇を、近代的時間の原理のもとに生きる主人公の(「ファウスト的」)存在様式によって必然的に引き起こされる悲劇として考察した。 ・<美>の探求者ファウスト、あるいはヘレナ劇の時間(平成13年度) ・神話と自然--「ヘレナ劇」の誕生(平成14年度):両論文において『ファウスト第二部』の核をなす「ヘレナ悲劇」をとりあげ、ゲーテの創作の原理とも関連して「近代人」ゲーテの時間意識を考察し、「近代」を超える独自な「時間」の可能性をも模索した。 ・ファウストは救われるか? あるいは近代と時間--『ファウスト』と時間・「序説」(平成15年度):日本の近代文学作品を素材に、西欧近代が移入された明治期における時間意識の変容とそれにともなう「生きがい」の問題を考察した。すなわち、近代的時間意識のもとに生きる人間の虚無感(ニヒリズム)とその超克が主題となった。 「研究成果報告書」に掲載した論文においては、このほか、『ヒストーリア』(1587)の考察をとおして中世末葉における近代的時間意識の萌芽を、マーローの「フォースタス博士』(1589)によってルネサンス人の時間意識を、またレッシングの『ファウスト断片』をつうじ、啓蒙主義時代における時間に対する意識を検討した。さらに、中心的な研究対象であるゲーテの『ファウスト』に現れた時間の諸相を考察することによって、近代的時間がはらむ様々な問題性とそれを乗り越える可能性についても検討した。 諸般の事情により今回「報告書」に掲載できなかった考察についても、早い機会に順次論文の形で発表してゆく予定である。
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