本研究の目的は「批判」と「保持・形成」に与る宗教的修辞の伝統の根の深さを、ドイツ近代文学史という歴史のスパンの中で系譜的に跡づけることである。具体的には、宗教や伝統の培ってきたイメージ・形象が、どのようなトポスを形成し、どのような文体を導くかを影響史的にたどる。 1.初年度はまず、伝統の「批判」と「保持」の両義性について、すなわち伝統の「否定・捨象」の営みが実は伝統の「保持・形成」をも胚胎しているその事情について、これまでの自分の研究を批判的に検証し、深化することから始めた。併せて、信仰や宗教的言説が広い意味での「啓蒙」を促しつつ、むしろ「批判」を質的に深めていく、その過程をまだ未取得の批評文学、ことに「宗教」と「啓蒙」を主題とする18・19世紀の文献(「理神論」「覚醒運動」関係図書など)に照らして、実証的に跡づけることに務めた。この項、J・G・ハーマンに関係する部分は、まとまりがよいので途中成果を公にすべく研究成果報告書を準備中(平成13年度に刊行予定)。 2.1の課題追求の際に、重要な鍵となる比喩形象や修辞法については、その関係と系譜を俯瞰できるよう、網羅的に跡づけることに務めた。近年CD-ROMで多く提供され始めたこの時代の文献を、コンピュータを用いて検索を行い、複数の項目の錯綜する関わりをも追求した。この項目は次年度へと継続予定である。 3.その後、こうした伝統の淵源を探るために、これまであまり日本では顧みられていない17世紀の宗教資料、特に賛美歌集を中心としつつ、説教、自伝、教義書、などの文献を購入し、その研究に入った。それらを、伝統の「批判」と「保持・形成」という主題に照らして読み解き、比喩形象を抽出しつつ、その一般の世俗的文学に与えた影響を文学史の観点から跡づける作業を行った。
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