本研究の目的は、「批判」と「保持・形成」に与る宗教的修辞の伝統の根の深さをドイツ近代文学史とう歴史のスパンの中で具体的に指摘し、系譜的に跡づけることである。古典主義、ロマン主義、写実主義、自然主義という風に通常の文学史が主題として採る巨視的な特徴付けよりも、個々の場で宗教や伝統の培ってきたイメージ・形象が、どのようなトポスを形成し、どのような文体を導くかを影響史的に問題とし、その筋道をたどる。 1.本年度はまず、昨年度の継続として、こうした伝統の淵源を探るために、これまであまり日本では顧みられず、そのためあまり資料の集められていない17世紀の宗教資料、特に讃美歌集を中心としつつ、説教、自伝、教義書などの文献について、その研究を行った。それらの書物を、伝統の「批判」と「保持・形成」という主題に照らして読み解き、比喩形象を抽出しつつ、その一般の世俗的文学に与えた積極的また消極的影響を文学史の観点から跡づける作業を行った。 2.さらに、その過程で抽出されてくる、伝統を批判しつつ形成する主要な概念・形象・イメージを聖書や神話の多様なイメージの中で位置づけ、その関連を探った。この過程において、コンピュータの自動検索機能を用いて、主要な概念・形象については、コンコルダンスを形作ることを目指した。 3.また平成12年度に達成した成果を、問題のより広い学問的地平の中において検討した。そのために、18世紀から19世紀に至る詩学・文芸学の問題を、神学あ哲学、神話学の文献に照らしつつ、宗教的修辞の持つ「批判」と「保持・形成」の側面を明らかにすべく努めた。
|