平成14年度は、研究目的に記した問題を以下の項目について順に跡づけた。 1.信仰や宗教的言説がを広い意味での「啓蒙」を促しつつ、むしろ「批判」を質的に深めていく、こうした伝統の淵源を探るために、これまであまり日本では顧みられず、そのためあまり資料、の集められていない17世紀の宗教資料、特に賛美歌集を中心としつつ、説教、自伝、教義書、などの文献の研究をさらに続けた。 2.その際に、伝統批判・形成の重要な鍵となる重要な比倫形象や修辞法については、その関係と系譜を俯瞰できるように網羅的に跡づけた。この時代の文献でCD-ROMで提供されているものについては、パーソナルコンピュータ用読み取り機を用いて検索を行い、複数の項目の錯綜する関わりをも追求した。 3.また平成13年度に達成した成果を、問題のより広い学問的地平の中において検討した。そのために、18世紀から19世紀に至る詩学・文芸学の問題を、神学や哲学、神話学の文献に照らしつつ、宗教的修辞の持つ「批判」と「保持・形成」の側面を明らかにした。 4.以上の調査・研究をふまえて、ドイツ文学ことにその宗教伝統との関わりにおいて、17世紀以降の比喩形象・修辞の果たした積極的な意義を検証した。それらが、啓蒙以降の批評文学の伝統において啓蒙と宗教の関わりを浮かび上がらせる、その仕組みを明らかにした。さらには、ドイツ近代文学における伝統の批判と保持に関する文体論的研究、このような問題設定が、近現代全般における「詩と思想」の関わりの問題にいかなる展望を開くか、例えば、宗教的啓示と「うた」の発生・起源の問題にどのような視点を開くか、その射程を検討した。 5.4・5年に一度の間隔をおいて催される「国際ハーマン・コロキウム」が先年度の終わりドイツで開催された(3月、ハレを会議場とした)。これまでの成果をその場で公表して、ドイツの研究水準に照らした評価を受けたが、これをうけて、その際に得た成果を研究にさらに盛り込むように努めた。この会議で情報を交わした日本の研究者たちとさらに何度か研究会を行った。
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