本研究の目的は、「批判」と「保持・形成」に与る宗教的修辞の伝統の根の深さをドイツ近代文学史という歴史のスパンの中で具体的に指摘し、系譜的に跡づけることであった。古典主義、ロマン主義、写実主義、自然主義という風に通常の文学史が主題として採る巨視的な特徴付けよりも、個々の場で宗教や伝統の培ってきたイメージ・形象が、どのようなトポスを形成し、どのような文体を導くかを影響史的に問題とし、その筋道をたどった。問題を修辞論・文体論の系譜として跡づけ、これまでの文学史理解の枠組みを再検討し、新たに提示することにつとめた。 平成15年度においては、平成14年度までに達成した成果を、問題のより広い学問的地平の中において検討した。そのために、18世紀から19世紀に至る詩学・文芸学の問題を、神学や哲学、神話学の文献に照らしつつ、宗教的修辞の持つ「批判」と「保持・形成」の側面を明らかにした。 また平成14年度までの研究の過程で抽出されていた、伝統を批判しつつ形成する主要な概念・形象・イメージを聖書や神話の多様なイメージの中で位置づけ、その関連を探った。この過程においては、コンピュータの自動検索機能を用い、主要な概念・形象についてその関係を網羅的に検証した。 これまでの調査・研究報告「聖書詩学のための予備的考察」を執筆し、刊行すべく印刷段階の作業中である。これまでに関連する分野の研究者と重ねた討議、意見交換を取り込みつつ、本研究で行った作業方法で達成した部分と、発展的に開かれた展望を統一的視点により把握することを努めた。
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