言語規範の成文化は、言語学的研究成果の集積に基づきつつ政治的判断をも顧慮した上で行われる。19世紀末に開始された舞台発音に基づく発音規範成立の史的経緯を振り返ると、初期の意図から離れて適用領域が拡大されたため、実証研究を積み重ねることによって一般的な標準発音へと発展してきたことがわかる。模範話者の発音分析が重要であるが、実証研究の結果を具体的な成文化に際してどのように反映させるかは大きな問題である。実証研究で多くの知見が得られたとしても、成文化の対象を理論的に絞り込む枠組みが存在しないため、恣意的な評価に陥る可能性があるからである。実証研究で確認された多くのオーストリアやスイスの変異形が規範作成者により排除されているのもこのためであることを本研究で示すことができた。さらに理論的整備に向けて研究を進め、方法論的規範主義、目的論的規範主義、方法論記述主義、目的論的記述主義の4つに分類した。その上で、E.Haugenの言語計画過程モデルにおける規範の選択、成文化、実行、改善の4次元を、H.Klossの席次計画と実体計画のレベルで考察することにより理論的考察を行う枠組みを提示できたと思う。
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