研究概要 |
研究初年度である今年は,言語資料の収集・整理を中心に作業をすすめた.ab-,auf-,aus-,mit-,uber,unter-,um-,vor-,zu-の前綴りを持つ動詞を対象に,通俗小説とLangenscheidtの辞書,DudenのCD-ROMから用例を収集し,PostgreSQLを使ってデータベースの作成に入った.現状では,個々の不変化詞の用例は,トークンとして文を数えた場合,300〜1000の間である. 一方で,関連文献の収集ならびに,国内の研究者との討論(広島大,神戸大へ出張)を行い研究動向に関する意見を交換した.その結果,当初考えた仮説の内,前置詞と前置詞由来の不変化詞動詞が統語的・意味的に連続した関係にあることが実証的に確かめられつつある.この成果のひとつは,「ドイツ語における不変化詞動詞の統語的・意味的連続性」という論文で発表された.この論文は,形容詞,副詞,前置詞由来の不変化詞が,統語的・意味的に連続体を成していることを認知言語学的観点から明らかにしたものである.具体的には,(1)冗語的方向規定詞(Pleonatische Direktionale)を伴って現れる前置詞由来の不変化詞動詞は,本来の移動方向の意味を堅持した前置詞句と平行関係にあること,(2)副詞派生の不変化詞を伴った動詞は,統語的に前置詞をスコープとするものが多く,一部のr-不変化詞動詞(her-やhin-の付いた不変化詞動詞)とは異なった統語的分布を示すこと,さらに(3)形容詞派生の不変化詞を伴った動詞は,結果構文として振る舞うが,これは述語用法を持つ前置詞派生の不変化詞動詞でも見られる特徴であることが明らかになった. 今後,統語構造と意味構造の類像性や,個々の不変化詞動詞の意味構造の合成性がどこまで説明可能かを検証する為に,さらに多くのデータの蓄積が必要となるが,この点は次年度の課題としたい.
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