研究概要 |
研究終了年度である今年は,言語資料の収集・整理と並んで分析と研究発表に中心を置いた.前年度は,不変化詞動詞の内,ab-,auf-,aus-,mit-,uber,unter-,um-,vor-,zu-の前綴りを持つ動詞を対象に用例を収集したが,本年度は,それに加えてan-,durch-,ein-の動詞群を追加した.分析は,主に(1)不変化詞動詞の冗語性(Pleonasmus)がどのように認知意味論的に説明できるか,(2)ドイツ語の不変化詞動詞と日本語の補助動詞構文の間の平行性はどの程度あるか,(3)事象構造と項構造の関係から不変化詞動詞の構文をどのように統一的に扱えるか,の3点に絞られた.(1)に関しては,発表論文("Particle-Bound Directions in German Particle Verb Constructions")の中で不変化詞動詞と結び付く方向成分が3種類に大別できることを実証的に示した.(2)に関しては,筑波大学で開かれた国際ワークショップでの発表("Where similarity resides : German Particle-Verb Constructions and Japanese Verb-Verb Compounds.")で取りあげ,ドイツ語でも日本語でもこれらの構文間で,方向規定の意味が文脈上存在することを示し,さらにアスペクト・マーカーとしての機能を持つところも共通していることを指摘した.ただし,個々のアスペクト素性は,個別言語的違いが認められる.(3)に関しての研究は,事象構造の理論的枠組みが現在,急激に変化しているところから,特定の枠組みからの掘り下げた研究にまでは結びつかなかった.近年脚光を浴びつつある用法基盤モデル(Usage-Based Model)から見た不変化詞動詞の構文研究の可能性に関しては,独文学会で(「不変化詞動詞とその構文:Usage-Baed Modelからの展望」)で発表した.一方,上述のワークショップでは,ドイツ人言語学者D. Wunderlichとの討論を行い,国内出張では,広島と神戸の研究者との意見を交換を行った.
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