まず資料収集については、昨年9月のウィーン滞在中に、「文学館」のアルヒーフを訪れ、言語実験派作家たちの作品や作品論、作家論のうちで重要なものをコピーし整理した。とくに新聞の切り抜きや雑誌の記事などは貴重な一次資料である。また8月には、研究補助員によって、手元にある当該作家の作品抜粋をテキストファイルで入力・保存する作業をしてもらった。保存テキストの分析作業は現在継続中である。3月の国内出張では、日本国内にある当該テーマに関する文献の収集に努め、数名のオーストリア文学研究者たちとも意見交換を行った。論文としてまとめたのは、ゲルハルト・ロートの初期作品に見られる言語批判と言語実験的な試行を考察したものであり、現在執筆中の論文では、雑誌マヌスクリプテに掲載されたテキストを中心に、リアリズムと言語批判の緊張関係のなかで生み出されたグラーツグループの文学的営為と言語実験的な試行の意味付けを考察している。彼らは高踏的な文学観に対する反発から、60年代のウィーングループを規範として、新しい文学言語創出の必要性を訴え、それを実践し、その結果社会批判的な文学へと向かうリアリズム派と、徹頭徹尾言語表現にこだわる言語実験派グループに分化した。後者の作家たちの前衛的な活動においては、パフォーマンスなど文字言語を超える視聴覚メディアの取り込みと活性化が問題となっており、その試行が新たな文学表現の可能性をひらくものであるかどうか、検証する必要がある。
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