本報告が扱うゲオルク・フォルスター(1754-94)は博物学者、啓蒙主義者、民主主義者として18世紀後半の西欧における世界史的運動と直接かかわったドイツ人・コスモポリタンである。この知の巨人は思想と行動の統一した稀有の人物であるが、当代のイギリス、ドイツ、フランスの社会とその思潮とともに歩んでいる。報告はつぎの5章より構成される。1-「エカテリーナ2世治下のフォルスター父子によるヴォルガ調査旅行」、2-「ゲオルク・フォルスターの『世界周航記』」、3-「マインツ革命とゲオルク・フォルスター」、4-「G.フォルスターと『新マインツ新聞』」、5-「ニーダーラインの観察考」。1章はエカテリーナ2世によるヴォルガ地方のドイツ人植民地計画の歴史を概観し、フォルスター父子のよるヴォルガ調査旅行の目的との関連を調べた。あわせて文献を網羅した。2章はゲオルク・フォルスターが『世界周航記』の執筆のさいに利用した資料について考察し、あわせてかれの叙述対象の選択とその文体の独自性をさぐった。3章はフォルスターのマインツ革命の実践とゲーテの革命観を対照させ、フォルスターの「共和国」構想を考察した。4章はマインツ革命の推進のためにフォルスターが中心になって発行した『新マインツ新聞』(1793.1.1.-3.29.)の記事を分析し、そのヨーロッパ的意味を強調した。5章はアレクサンダー・フォン・フンボルトと行ったフランス革命直後の西欧旅行を扱う。旅行の意味、西欧の諸都市の状況、フォルスターの芸術親(ゴシック建築、ルーベンスの評価)について叙述している。以上、ゲオルク・フォルスターの思想と行動の本質的部分に焦点を当てながら考察を進め、コスモポリタンとしてのフォルスター像を浮かび上がらせた。
|